マッキンゼーをつくった男 マービン・バウワー/エリザベス・ハース・イーダスハイム(著)
“マッキンゼー”を世界最強のコンサルティング・ファームにした、まさに『マッキンゼーをつくった男』の話です。
ちょっと古い本ですけど、景気も良くなってきたことだしこの手の本を読むのもいいタイミングかと…
読み物としてもかなり楽しめます。
すごい人の人生っていうのはやっぱり映画にしてほしいくらい面白い。
たくさんのエピソード、まさかと思うような事実、その人格を形成する幼少期を過ごした環境など、書く内容を選ぶのに苦労しそうなほどだ。
(まぁ、だから本になるんですけどね)
読後の感想としては、へたなマッキンゼー本読むならコレを読めって思います。経営者ならこれくらい読んどけ的な。
なぜならマッキンゼーの価値観、哲学はマービン自身の歴史であり、ひいてはマッキンゼーの歴史でもあるからで、他の本は彼の考え方の応用であるからです。
本書構成としては、彼とかかわり実際にマッキンゼーで働いていた人たちのインタビューをもとに構成されています。筆者自身もマッキンゼーでマービンとともに働いた経験の持ち主。
『マッキンゼー 経営の本質~意思と仕組み/マービン・バウワー(著)』と併せて読むとさらに理解が深まると思います。
彼の哲学は少年期にあり
子供のころ、父親から家庭内の問題などにも『君はどう思うか』とよく意見をもとめられたようで、マッキンゼーでも部下の意見をよく聞いたようだ。そうした事が後進にも受け継がれている。
時に自分の考えに反するものでも、まず意見を聞いて判断を下す。何よりすごいのは、たとえ自分の考えと合わなくても顧客のためであったり、時代に則したものであれば部下の意見も率直に受け入れてそれを仕事に反映させる謙虚さや誠実さを持っているところだ。
人は年を取るほど、多くの経験を積むほど人の話を聞く冷静さが欠けてくるもの。
上司と部下との関係で指摘しあう事は多くの人たちにとっては難しい事だということも理解していたようで、彼はマッキンゼーから上下関係を排除した。これが価値観や情報の共有を容易にするんですね。当然余分なことに気を使わなくてすむから運営もスムーズでシンプル。
上下関係の弊害は社員の個人的な問題だけではないと思います。やがては会社全体に影響を与える重大な欠陥です。
日本の、特に古い体質の体育会系企業は統率が取れてるうちはいいが、一旦ほころび始めると退職率が高くなったりして人事コスト負担に悩んだりする会社ありますね。
本書に、この階層構造組織の弊害を端的に言い表している箇所がある。
マービンは階層型組織は断じてよくないと深く思うようになる。そもそもこのような構造の組織では、会社の最重要資産である社員に対して敬意が払われず、権限委譲が行われない。トップは孤立し、中堅社員や現場の社員から得られるはずの情報から遮断される。そうなるとトップは独善に陥りやすく、規範を踏み外しても指摘されなくなる。マービンの考えでは、こうした組織は経営の基本に反している。
いわゆる「ワンマン経営」というやつですね。新しい時代についていけない企業の多くはこの弊害をもろに受けていて、潰れはしないまでも成長などしない、しようとすら思っていないように思えます。
経営コンサルタントの創始
今でこそ商品の販売状況を分析したり、社員一人ひとりについて得意分野ごとに分担することをしているけれど、アナログとデジタルの間のような時代には“最適化”という考え方がなかった。
今でも日本には根強いが、縦割りの上下関係で、上司への盲従のあまり、悪い情報は一向に上にあがらない。情報を整理して経営戦略立案などできないので結果として倒産となる。その事を知って即実行に移していくつもの企業を救うことになる。
彼は気付く。経営に関する助言をする機関などない時代、会社というのは法律問題は顧問弁護士がいる。資金問題なら銀行、でも経営は?
そして彼は経営問題について助言する仕事として『経営コンサルタント』と名付け、実行していくことになる。
1933年の、まだ彼がマッキンゼーに入る前のことです。
元々コンサルタント会社ではなかったマッキンゼーを経営コンサルタント会社にしたのは彼であり、創始者ではないにもかかわらず、マッキンゼーをつくった男と呼ばれる所以はここにあったんですね。
経営コンサルティングの手法創出
マービンの仕事の進め方は一貫している。
誰が何を必要としているか、誰を中心に物事を進めていくべきかが終始明確になっている。こうしたことは、いま巷にあふれているマッキンゼー出身者の方々の本を読んでもたいてい同様のことが書かれている。
コンサルは当たり前って言われるかもしれないけれど、それを名乗る人達の中には意外とできない人って結構いるんですよね。だから未だに経営コンサルタントってビミョーな見方されますよね。
もちろんすごい仕事ができちゃう人もいらっしゃいます。
仕事を遂行する上で重要な顧客との信頼関係
ある銀行の副頭取から、マネジメントエンジニアリングに対するぼやきを聞かされる。
『あの手の会社で困るのは、実にみごとな改善プログラムをすごくきれいな報告書に仕上げてそれでさようなら。しかしそれを誰も実行しようとはしない。』
これを聞き、いくら正しい提言をクライアントに提案しても同じ情報を共有し実行していかなければ意味が無く、クライアントからすれば他人事でしかないのだと実感する。
そうしてマッキンゼーのコンセプトである『クライアントとのパートナーシップ』がうまれた。このパートナーシップの精神は、ファームそのものの経営スタイルで、エージェント全員参加型の経営に強く表れている。株式会社化の際はこの精神が崩れないかおおいに議論された。
(ちょっと話はそれますが、たまに『経営者目線で仕事しろ』と言う経営者の方がいらっしゃいますが、それとは全く違います。そう言う経営者の場合、そのひとが言いたいことは『仕事をとって来い』という意味で本来自分がすべき仕事を部下にやらしているだけの事です。)
そしてクライアントとはもちろんの事、自分達の組織内にも一枚岩の経営コンサルタントの職業倫理、ファームの価値観の共有を厳格に守らせていたようです。
また、僕らがマーケティング業務を遂行する上で、クライアントへのスタンスについてある指摘をしてくれている。相手がたとえ企業のトップであっても。
CEOというのはとても孤独なんだ。大勢の人が大企業のCEOと会いたがる。だがそれは何かしてもらおうと頼み込むためか、でなければ何かを売り込むためだ。もしこちらが礼儀正しく、十分に準備をして、私利私欲とは無関係のことで話を聞こうとするなら、きっとよろこんで話してくれるだろう。だから、相手が大企業のトップだからと言って恐れることはない。彼らと話すのは、けっしてむずかしいことではないのだから
マッキンゼーの考えるプロフェッショナルとは
マービンは服装にかなりこだわったようです。
日本でもプロフェッショナルだなこの人、という人はたいていこだわりを持っているものですね。
失敗から学ぶことの大切さ
すごい人でも若くて勢いある人は失敗する。というより、すごい人ほど失敗してそこから学ぶ。普通の人よりも多くを。
マービンも例にもれず多くを学んでいる。
例えば、自分の父親ほどの年齢のクライアントに対して率直に間違いを指摘してしまい、クライアントの怒りを買った。そこから彼は相手が自分の言動をどう見ているか、相手の立場から自分がどう映るのか、自分の言葉はどう響くか、相手の反応を考慮に入れなければどんな判断も適切にはなり得ないという事を学んだ。
最近の企業の多くはまず若手に失敗をさせない。失敗しない方がいいけれども、新卒を採用しておきながら人材を育てない企業があまりに多い。経営陣が保身追及のみに感心があるためなのだろうが、そういう経営者にかぎって『最近の若いやつは』と言う人が多すぎる。(もちろんチャレンジ精神というか、好奇心すら稀薄な若い人が多いのも事実でそういう若い人ほど転職斡旋企業のビジネスモデルにまんまと乗っかって転職ループにはまる人が多い)
本書の見所、3大クライアントの物語
ロイヤルダッチ・シェル、プライス・ウォーターハウス、ハーバード・ビジネススクールの成功劇の章はリーダーシップとはなにか、どう難題に取り組むかがかたられている。そしていずれもマービンのやり遂げる勇気を讃えて、チャーチルの言葉で結んでいる。
いつも読んでくれてありがとね!人間に備わった資質のなかで第一に挙げるべきは勇気だ。なぜなら、一人の勇気は他の大勢の勇気を呼び覚ますからである