小さな会社の大きな未来。
マーケターやコンサルが書く本は、これまで多くのものがふんだんに広告費を打てる大手企業の環境で成功した事例の経験談ものが多かった気がします。
ところが、そうした本を必要とする大多数の人達は中小企業でロットもそう多くない製品を企画・製造・販売する人々です。
衰退著しい日本の製造業ですが、数年前からそうした状況もあってか中小企業が成功した事例を取り上げる本が増えてきました。
実体験を元に財務見直しにブランディング、マーケティングをするコンサルタント
奈良に手織りの麻織物を製造・販売する老舗の中川政七商店があります。
十三代目の中川淳氏が、元は麻織物のメーカーを、ブランドを興して小売業に転向・発展させました。
業界の方は知らない人はいないと思いますが、中小企業のブランディングのお手本のような本を書いてらっしゃいます。『奈良の小さな会社が表参道ヒルズに店を出すまでの道のり。』
実体験で得たものは何よりも強い武器となります。
それが中川氏の二冊目の著書『老舗を再生させた十三代がどうしても伝えたい 小さな会社の生きる道。』にありありと記されています。
本の内容は、経験を生かしてコンサルを行った5社の事例を紹介し、財務・決算の見直しやコンセプトワークからブランディング、マーケティングの方法を紹介していて、ドキュメンタリータッチの軽快さで読み物としてもかなりおもしろいです。製品を生み出す側が何を考え、どう売るべきかを語っていて、業態関係なく楽しめます。
成功するには視点を変え、考え方を変えるべき
特にこういった本はたいてい「ブランドとは」「マーケティングとは」だけにフォーカスしがちですが、バイヤーへの売り込みの際に『ユーザー目線で伝えること』など、内部的な考え方だけでなく実際に製品を使うエンドユーザーへ「どう伝えるべきか」ということもしっかり書かれています。
技術者はたいてい「この素材の加工技術はウチが日本一」というようなことを言いたがります。しかし消費者にとってそんなことはどうでもよく“購入することでどんな価値があるのか”を知りたいはずです。
一見冷静に考えれば当たり前のようなこともできていないということを、この本が気づかせてくれます。
また「自分がどうなりたいのか」「会社をどうしたいのか」ということの課題をしっかり解決することがブランド成立の近道だと教えてくれます。
お店や会社のオーナーの中にはこの点があいまいな方が意外に多く、そもそもモチベーションが低い方や半ばあきらめている人もいます。お金を出したから何とかしてくれるだろうといった考え方では、どんな素晴らしいコンサルタントでも手に負えなくなることもあるわけです。
どんな世界でも当事者意識を持たなければ成功などあり得ません。これは時折、僕自身も感じることがあります。これまでと違うことをしたい、新しい未来を創りたいと思うとき、今までの考え方は通用しないわけですから、自ら変わることが第一歩だと思います。
「経営とは」「ブランディングとは」「ものづくりとは」ということが巻末にまとめられていて、5社のコンサル実行内容を総括しています。
特に注意点として「ブランディング」と「マーケティング」の違いをあげて中小企業の取り組み方を指摘しています。
中小企業においては、ブランディングの方が方法論としてあっている。なぜなら第一に、お金をかけることができないので、高度な市場分析ができない。第二に、それほど大きなポジション(=売上規模)をとる必要がないからである。ただ「自分のやりたいこと」が、知らず知らずのうちに「儲けること」とイコールになっていってしまう。それでは本末転倒で、ブランディングのつもりがマーケティングになってしまっているので気をつけなければいけない。
中小企業の、これから何か新しい方向性で頑張ってみようという方、ものづくりだけでなく流通系企業の方は是非、オススメというより読むべきだと思う1冊です。