石本 馨(著)『大江戸橋ものがたり』
僕が生まれ育った町の北に鋸山という標高300mほどの山がある。
江戸時代にはその鋸山から切り出した石は房州石と呼ばれ、今でも皇居のお堀の石垣となっている。
巨大で重いあの石を船で運ぶため、江戸時代の東京は埋め立て工事と同時に水路も張り巡らされ、当然人口の多い江戸のまちには橋がたくさん架けられた。
架けられた橋は関東大震災や戦後のがれき処理で川やお濠が埋められたため役割を終えてなくなってしまったものが多いけれど、地名として今でも残っている。
いわゆる江戸時代の雑学本で、橋のそばで起こった出来事や橋名の起源など個人的に初めて知った事も多くて単純に面白い。
300年も続く平和な時代の江戸町民文化が橋を通して見えてくる。
本のみどころ
- 死者700名を出した永代橋落橋事故で事故に気付かない後方の群衆が押し寄せる中、それ以上の落下を防ぐために機転をきかせて町奉行所同心渡辺小左衛門が刀を抜いて「切るぞ切るぞ」と振り回して群衆を霧散させたエピソード
- 午後6時に閉門となる平川門橋の門に間に合わなかった春日局に「将軍の命がない限り、門を開くわけにはいかない」を閉め出した小栗叉一郎の話とその門から刃傷沙汰でとらえられ、この橋を渡って宮中を出た浅野内匠頭の真実
- 幕末の大事件「桜田門外ノ変」が桜田門橋のそばで起こり、襲撃は無様なもので刀で斬られた指や耳が落ちていた
- 幕末に東海道鎮撫総督府に南町奉行所を引き渡す際、奉行所は畳や障子が新調され、水を打った玄関先にはチリひとつ無かったといい、裏金まで手を付けることなく書類とともに引き渡されたらしい。与力・同心たちの管理能力の高さを表すエピソード
- 銭瓶橋(大手町2丁目付近)のほとりに江戸初の銭湯が伊勢与一によって建てられた。
- あんなに有名な日本橋、実は創架も名前の由来も不明だった話。
- 江戸時代の処刑方法6種類(orz)
- 徳川氏入国以前からあった淀橋にまつわる不気味な伝説と、成願寺にある像から2体分の人骨が出てきたエピソード
- 獄門橋、別名幽霊橋とキリシタンとのかかわり。そして殺人兵器貿易のためのキリスト教宣教師の果たした役割、特にフランシスコ・ザビエルがヨーロッパ帝国主義に日本を売り渡す役割を演じて多くの日本女性が拉致され、奴隷船に乗せられて海外で売り飛ばされた(やっぱし宗教ってこんなもの)
- 元来日本には生息しなかった猫の名がついた「猫股橋」の話
- 京都から下ってきた初代中村勘三郎が江戸初の芝居興業をおこなった中橋。東京駅真ん前の八重洲通りは水路でそこにかかってたらしいです。
- 高杉晋作が討幕前に反駁の志士吉田松陰の骨をもって堂々と三橋(将軍の御成橋)を渡った逸話が事実だったっぽい話
- 武将の子にして武蔵の弟子で江戸の盗賊頭、向坂甚内の名をつけた甚内橋のはなし。なぜか盗賊なのに橋のあった近くにはこの人を祀る社が建てられ、しかもその娘は番町皿屋敷のお菊…
- 合羽橋に伝わる河童伝説の真実。これわりと近年歴史考証が進んで、河童とは誰のことを云ってるかわかってきてますよね。本書でもそのことに触れています。
- 遠山の金さんでおなじみの北町奉行遠山景元が歌舞伎を救い、それがもとで現代まで金さんが人気があるという話
金さんは桜吹雪の入れ墨がじつはなかったという説があるが、桜吹雪どころか女の生首が手紙を咥えた凄まじい入れ墨があったという話も - この本で初めて知ったのだけれど、今戸橋そばには浅草弾左衛門という人が住んでいて、彼は被差別民だった「エタ」・「非人」の頭領であり、皮革産業で巨万の富を得てその財力は5万石大名に匹敵するほどだったそう
- この本とは全然関係ないけど「あしたのジョー」でも有名な泪橋(なみだばし)、そこでも悲しい物語の舞台だったけれど、江戸時代もこの橋は死刑囚が小塚原の刑場へ涙を流して渡った悲しい橋。刑場は無数の死体と人骨であふれかえり、鳥や犬が人肉を食んでいたらしい。鈴ヶ森に向かう現存する浜川橋も「涙橋」と呼ばれていた
日本人が得意とする翻訳技術をもって『ターヘル・アナトミア』を翻訳し、ここの処刑場の遺体を利用して腑分けして『ターヘル・アナトミア』の正確さを検証した。その後『解体新書』が発表された - 四十六士が最初に渡った一之橋
僕は今まで赤穂浪士の忠臣蔵はあれだけテレビドラマや映画化されているので、ほとんどは脚色された部分は少ないのだろうと思っていた。けれどじつは四十七士ではなければ通った道順も違う、吉良上野介は討ち入りの際逃げまどったとされるが実際は老体に鞭打って武士らしく戦ったらしい。そもそも浅野内匠頭が松の廊下で発した「この間の遺恨おぼえたか」も、じつは言っていない可能性もあるようだ。
江戸町民の娯楽は芝居が人気でありその影響力は今のTV並なわけで、脚色も当時からされていれば現代で事実にたどりつきにくくなる。
江戸の歴史は江戸の町は骨だらけ (ちくま学芸文庫)と一緒に読むともっとおもしろくなります。
まぁ、ブラタモリあたり好きな人には特におすすめですww。