ニューヨークパーフェクトチーズがいまだに人気の理由
2017年に開店してから数年たった今でも店舗前には客が列をつくり、平日でも15時をすぎるころにはメインの商品が売り切れるという大盛況ぶりです。
なぜそんなに売れているのか。
目にするのはプレスリリースがポツポツあるくらいでさほど大きな宣伝もなかったのに、未だに行列が続く人気店となっています。
その理由はなにかを考えていくと、かなり多くのことを学べます。
マーケティング・ブランディングの戦術の特徴としては、
- デザインコンセプトの一貫性
- マーケティングにおける心理戦術
- 意外性という新しいコンセプト商品
といったところでしょうか。
お店と商品の特徴
洋菓子店『ニューヨークパーフェクトチーズ』は、いくつかの過去のニュースリリースなどにも書かれている通り、主力のチェダーチーズ入りホワイトチョコをラングドシャでくるんだお菓子を販売する、東京みやげの代表格です。
他にもいくつかの商品を販売してますが主力の商品は、店名がそのまま商品タイトルになったものです。
三人のお菓子づくりのスペシャリストが監修して丁寧に焼きあげられたそのお菓子は、価格の価値をじゅうぶん上まわると感じます。
ブランディングの戦術
出店当初から店舗前には行列が絶えず、いまでも15時すぎくらいにはメイン商品は売り切れてしまう人気ぶりです。
決して店頭で『限定』と謳っているわけではないですが、SNSなどをはじめ口コミで「売り切れる」ことが知られています。
宣伝をしないという戦術
宣伝という宣伝はしていません。プレスリリースがいくつかのメディアで出されているものの、爆発力のあるような記事も広告もない。
スターバックスは「自信があるものは宣伝しない」という戦術をとっていて、サービスの一貫性があるもの、分かりやすさ、パッケージの良さ、これらが客の納得を生みブランド化されていきます。
つまり、勝手にブランドとして認知されていっている。
ニューヨークパーフェクトチーズも同様の戦術でブランド価値を高めているように思います。
デザインの統一性、テーマの一貫性が迷いをなくす
売れている理由を考えると、まずわかりやすいのはデザインの統一性、テーマの一貫性が「これを買うかどうするか?」という迷いをなくしている点。
またマーケティング戦略的な点でいうと、販売している商品はコンセプトに見合った数種類だけなので、選択肢をへらすほどユーザーが買いやすいという『ジャムの法則』が成り立ちます。
このパッケージデザインやブランディングを担当した方を知って、なるほどなぁとなりました。
ブランディングとパッケージデザインは株式会社BULLET代表の小玉文さんが手がけたようです。
数々のデザイン賞を受賞されていて、その実績もパッケージデザインが多い。Pinterestなんかでもよく目にします。
もともと株式会社 粟辻デザインにいらっしゃって、こちらのデザイン会社さんも記憶に残るようなパッケージデザインを多くてがけています。
さて、実際の店舗や商品パッケージをみてみます。
店舗を遠目ではなれたところから見ると、視覚にまずゴールドの色が飛び込みます。近づいていくと、シズル感満載のお菓子の写真が見えてくるわけです。
お店のメインのカラーはゴールドで、店舗全体を遠目で見ると目立ちます。
パッケージもそうですが部分的に黒で引き締めていて、きらびやかで都会的な雰囲気と高級感を持たせています。
ちなみにゴールド(金色)が人にあたえる心理的作用として、『じぶんに光をあてて自己の価値を認識してよろこびや幸福を感じさせる』という効果があります。
この「ゴールド」はコンセプトの中にあるいわゆるテーマカラーなのだと思います。
ニューヨークを連想させるテーマカラー。
NYといえば金色(グッゲンハイム美術館の金色トイレやプロメテウス像、自由の女神が持つ松明の火も金などなど。NYは金色多め)なので、おそらくテーマカラーになった気がします。あくまで私見ですが、高級感を醸すうえでもこのカラーは重要です。
商品の箱に入っているリーフレットにも書かれている通り、『〜新しいニューヨークスタイルのチーズのお菓子』というコンセプトをしっかりパッケージや店舗デザインに落とし込まれています。
コンセプトから導きだされたデザインの一貫性が、ユーザーがお土産を選ぶときの迷いをなくしてくれていると思います。
人の心理にはたらきかける
マーケティングの展開戦術は、商品どうこうというよりもまずは知覚に訴える戦いなので、ここさえうまくいけばある程度流れを作れます。
希少性の原理
ニューヨークパーフェクトチーズは、SNSやネット上のブログで紹介されるとき、たいてい『早々に売り切れる』という文言が見受けられます。
ここでは『希少性の原理』が働きますが、お店や企業から発信される希少性の情報よりも、こうした第三者の言葉や口コミでもたらされた希少性の情報のほうがインパクトは大きいはずです。
意図的に製造数を限定しているのかどうかはわかりません(当然生産量は経営戦略として決めていると思う)が『暗黙の数量限定』はお客にあたえる心理的効果は大きいと思います。
この希少性の原理が、お店のデザインで吸い寄せられた客の列と相まってさらに行列を作る効果を促しているように思います。
バンドワゴン効果
アメリカの経済学者、ハーヴェイ・ライベンシュタインが作った用語で『バンドワゴン効果』というのがあります。
人は、たとえ美味しそうなガラガラのお店があっても、となりに行列をつくっているお店があったらそちらに並んでしまいます。
つまり選択肢が別にあったとしても「みんなと同じ」というのが安心できるわけです。
そうしたことから行列がさらに行列を生むわけです。
『バンドワゴン効果』のデメリットとして、並ぶことの面倒くささがあります。
しかし最近の脳科学研究では『辛抱強く待つ』という行為も苦痛と感じなくなる理由が明らかになりつつあります。
行列することを苦もなくできるようになる裏には、ヒトの脳内でセロトニン神経細胞のはたらきが関係しているのではないかということが沖縄科学技術大学院の研究で推定されています。
これは将来的になにかを得られるものがわかっているときにセロトニン神経活動が活発になって、我慢できる時間が増えるのではないかということ。
つまり、通常よりも待つことが苦ではなくなるということです。
『ニューヨークパーフェクトチーズが買えるなら行列に並ぶのも苦ではない』ということになる理由です。
男性と女性、別々のターゲット戦術について
ねらっているかは別として、男性と女性それぞれに影響している戦術があります。
まずは女性に対して。
「自分が金色のそれを持つ」ことを想像して買うものを選ぶという、女性の「商品の価値」に自分を投影するという情緒価値をかきたてます。前述のテーマカラー選びがここで活きてくるわけです。
(このあたりは谷本理恵子さんが書いた『ネットで「女性」に売る 数字を上げる文章とデザインの基本原則』という本がとても参考になります)
絶妙な価格設定も魅力的で、商品価値とバランスをとりつつお得感もあります。
・書道家の深澤里奈さん
朝からお菓子。
『NEW YORK PERFECT CHEESE』
朝からワイン飲みたくなっちゃうやつ。#鈴木麻起子 https://t.co/10adk8jV99— 深澤里奈 Rina Fukazawa (@rinafukazawa) February 9, 2019
続いて男性に対して。
女性に人気なら誰にでもウケるだろう的な発想を男に持たせてくれます。
つまり「会社へのおみやげは社内の女の子にウケないと困るよね」という心理を口コミが後押しします。
・はあちゅうさん
東京駅をうろついているお土産に悩んでいる男たちよ~!駅構内に最近出来たBAKEのバターサンド専門店「プレスバターサンド」と真向かいの「ニューヨーク パーフェクト チーズ」を買って帰れば大体の女子は落ちる!最低でも株はあがる!女心をわかってる男だと思われる!現場からは以上です。 pic.twitter.com/m8cJLs0n4R
— はあちゅう (@ha_chu) May 16, 2017
はあちゅうさんのツイートになるほどという人もいるかとは思いますが、多くの男性陣は言われなくても案外そう考えていると思います。
マーケティング戦略的な話
マーケティング戦略的な話になってしまいますが、出店する場所の選定も絶妙で、地方の客にターゲットを絞っています。
東京の都会的な雰囲気を思わせるパッケージデザインは「東京みやげ」に最適だと感じるわけです。
出店場所=>ターゲットユーザー
新宿=>バスタ等を利用する地方客
東京=>圧倒的地方客
羽田=>飛行機での地方客
また、ラングドシャにチョコレートという商品は世の中にはすでにたくさんありますが、視点を変えたコンセプトで「チーズ」を加えて新たなカテゴリーを作り出しています。
いつも読んでくれてありがとね!