記憶のしくみ 上巻 ~ 脳の認知と記憶システム:エリック・R・カンデル、ラリー・R・スクワイア(著)
この本をオススメするひと
前半には脳の各部位がどういった機能、役割をはたすのかを様々な実験によって解き明かしていったプロセスが、脳科学者たちと共に紹介されています。
著者がまえがきに書いているとおり、専門家以外の『記憶』というものに興味を持つ一般読者とこれから生物学や認知心理学を学ぼうとする学生を対象にしてます。
記憶とは
記憶というのは単一の出来事をあたまに入れるだけでは成り立たないようです。
つまり、一つの物事に対してそれを取り巻くたくさんの情報が絡み合い、つながりあって記憶を形成しています。その繋がりがうまく保てないと記憶の障害や病気ということになるようです。
記憶することのプロセスのひとつには慣れること、つまり馴化するというのがあるようです(相対するもう一つは鋭敏化で詳しくは本読んでね)。
よく聞くニューロンという神経細胞が脳内で互いにシグナルを伝える能力を“修飾”(変化)させて、それが長く持続すると、一つの記憶となる。“修飾”とかいうとなんだか難しいですけど、要するに先に書いたように記憶というのは単一の事象ではなくあらゆる記憶の断片(単語やイメージ)が結びついて新たな記憶となる。それを結びつけてるのがニューロンで、なんかSFホラー映画で出てくる細菌みたいに触角伸ばして他の細菌と引っ付こうとするのが“修飾”ってことなんすね。(解釈間違えてたらツッコミください)
よく知られた名のニューロンの知られざる事実
臭覚や味覚、視覚などで記憶すべき対象を捉えた時に、ニューロンで引き起こされる信号はすべてはほぼ同じ信号であって、別々のユニークな伝達物質ではないらしい。信号が通るルートによってそれらの感覚を判断しているようです。
これら伝達物質などは電気信号のように伝送され、ときに化学変化を起こしたりして伝わっていく様はほんとうにコンピュータみたいですね。
僕が一番知りたかった遺伝する記憶のこと
ニューロンの中には核があってDNAが含まれてる。
これをはじめて聞いたとき僕はトウシロなので、すぐに『記憶って遺伝すんじゃね?』と思いました。
DNAでいろんな情報が受け継がれるわけだから、当然記憶の断片くらいは受け継がれるんでないの?と思ったら、やっぱり可能性ありそうな箇所がありました。
ニューロンの中には遺伝情報を持ったDNAが内蔵されている。つーことはですよ、なんらかのキッカケで他の記憶と繋がってしまう可能性あるわけですよね?
寝ている時に見る夢で見たことも行ったこともない風景なんかが出てくるのはそのせいでは?
と、このド素人がっ!って思うでしょ?
しかーし!僕のトウシロ考えを裏付けるような出来事がありました。
アメリカの研究チームがマウス実験である成果を出したことを昨年暮れに発表したのです。
ただし、残念ながらそれぞれの感覚を伝達する物質はほぼおなじようなもので、脳が映像そのものを記録して残しているわけではないので、ご先祖様の見た映像そのものが遺伝していくわけじゃない。ただ素人考えとしては、複雑に絡まったニューロンが持つ遺伝情報がうまく絡み合った場合に、もしかしたらご先祖様の記憶に出くわす事も・・・あったらいいなぁ。
映画の見過ぎ?
しかしながらこうした研究は日本でも結構行われていて、昨年7月には日本の理化学研究所が光と遺伝子操作で記憶を操れる事をマウスで実証しています。
忘れることができないことの恐怖
一見便利なはずが実は厄介だったりして、人生は皮肉なもんです。
D・C・シェレシェフスキーという新聞記者は驚異的な記憶力の持ち主だった。普通の人が憶えられないようなリストを短時間で記憶し、ほとんど間違えること無く復唱できた。
彼の記憶方法は順に記憶すべき単語などを一直線上にイメージとして配置し、それらをなぞるようにイメージを回復していくというもので、一見合理的な記憶方法と思える。
しかしながら彼の欠点は、見たり聞いたりした物事の全体を俯瞰して、今処理すべき情報(単語など)を選り分けて理解していくことができない。つまり、いらない単語などを聞き流したりして理解することができない。すべて一つひとつを記憶してしまい、概念として分けることができないのだ。
忘却するという一見残念な現象も、僕ら人間が生きていくためには非常に大切なことなんですね。
未だ解明されない忘却のメカニズム
“忘ること”は記憶そのものが消し去られるのか、それとも想起の抑制なのかははっきりしていないようです。
とにかくこの本は、これまで実験で実証されたものを段階を追って紹介していて、記憶プロセスやどういった物資が何と結びついてどう働くかなど、またRNAのタンパク質生成の基本的な話もされていて、僕のようなド素人でも読みやすい構成になってます。
やはりこれから生物学、神経科学だけでなく心理学などを学ぶ学生にはとっかかりに読むには最適だと思います。
科学が発達して多くのことが化学的に実証解明されてくると、ついこの間まで事実だと思っていたことが覆される。それは化学という学問分野を飛び越えて哲学の世界にも影響を与えうる。
本書冒頭にあるように、デカルトの『我思う、ゆえに、我あり』は精神活動が身体活動から分離独立していると謳うが、もはや全ては脳から生じているとする現代生物学的見地からすれば、それは間違いである。
はぁ~、やっぱり科学ってすげ~わ。