原発依存から本気で脱したいならこれを読め!『暮らし目線のエネルギーシフト』/キタハラマドカ(著)
僕がわすれられない出来事が何かと問われたら多くの日本人同様、一つは東日本大震災だと答える。
津波に襲われた東北太平洋沿岸部から遠く離れた場所に住んでいても、その恐ろしさは多くの映像や被災者の話からまざまざと伝わってくる。
そしてなにより福島原発から放たれた放射性物質のために未だ復興できない周辺地域の状況を見聞きするたび、自然災害に匹敵するほどの影響を及ぼす原発の怖さ、悲惨さを実感させられる。
原発というものはこれまで、炉体にある程度強力な力が加わっても耐えられるほどの頑強な構造になっていると教えられてきた。ところが3.11のあと、実際は炉体が耐えたとしても外部にある電源はさほど大きな力が加わらなくても制御不能に陥り、メルトダウンが起こる可能性があると言う脆さを露呈しました。
事故以降、デモや様々な議論がなされ多くの人たちが食品に気を配り、ガイガーカウンターで住居地域を測ったり、お金と時間に余裕のある人は西日本や海外に移住する人まで出ました。
ところがそうした行動は単なる対処療法でしかなく、『原発に依存しない社会づくり』を実現したいなら、すべての人が少しづつでもできる行動をとる必要があります。
便利なものは当然何かを犠牲にしています。そのリスクは自分以外の人、友達や家族、その他ヒト以外の動植物にも影響を与えて地球上のどこに住んでいようといずれは自分に返ってきます。
そこで僕らは何を知っておくべきか、どう行動するべきか、どう権利を行使しその責任を果たすべきかを教えてくれているのがこの本です。
本書では、小難しい政府の指針やら国民すべてに与えられた身近かつ意外と知られていないロビィ活動の方法などをとてもわかりやすく紹介してくれています。
市民活動をする、続けるために
エネルギー基本計画に本書の中で触れている『女性の視点が反映されていない』のは、やはりおかしいなと共感しました。
家事で家庭内でのエネルギー消費活動を行うのは多くの場合女性です。
なのに政府主導の計画にはほとんどその意見や影響が及ばない。
そこで著者は一時的な批判や無関心を捨てて、もっと論理的なアプローチで与えられた権利を有意義に使い、少しづつ良いものにしていきましょうと訴えています。
もちろん家庭内での節電・省エネの努力は家族全員の強力が必要です。
また、地道な活動が主体ですがそれだけでは不足で、やはり政治活動も必要です。そこも難しく考える必要はありません。パブコメ(パブリック・コメント)に投稿する、選挙に行くといった与えられた権利を行使するだけです。そしてそれを続ける事。
注意点として決して無理をしない、力まないことだと著者は言います。
できるだけ「敵」をつくらないこと。権力とたたかうのは何となくカッコイイようではありますが、相手が巨大すぎるので疲れます。~中略~実現できそうにないことに向かってチカラを無駄に発散するよりも、最短距離で目的を達成するために知恵をしぼるほうが、ずっと効率がよい。そして、楽しくなければ続きません。
社会への参画方法とは
著者のアプローチ手法で素晴らしいと思うのは、ひたすら反原発で声高にデモやSNSで絶叫するのではなく、まず何をすることが有効なのかを冷静に考えて実行していく粘り強い活動をしていること。
無関心こそ最大の罪だとして他の誰でもない、あなた自身が行動してみんなで地道に活動しましょうとしています。そのためには当然民主主義的に他の人の意見にも耳を傾けることもとても大切です。
人間は3人以上集まれば社会を構成します。社会でどう暮らすのか。目的やビジョンを共有し、実現していくには、「他者」との「対話」が欠かせません。
原発に反対しない人たちはすべて推進派だと敵対視して、友人関係すらシャットアウトする反対派の人たちも目にします。関係性が切れてしまえば、議論はできません。世の中の課題は原発だけではありません。こうした姿勢では、世の中を変えて原発のない社会をつくることはできません。
誰かを批判するだけの無意味な活動ではなく、もっと建設的に力まない活動方法があることを教えてくれています。
そして無知・無関心でいることのカッコ悪さを指摘し、どう活動していくかについてこういいます。
「デモしたけど、投票しなかったよ」とか「パブコメあるの知らなかったよ」とかは、ホントにカッコ悪い。世の中を本気で動かしたいとき、その機会が与えられているのに逸するほどバカらしいことはないからです。
わたしたちは、人を集めてデモをしたり署名を集めることに力を注ぐよりも、勉強会の質をどう高めていくかを常に考えていました。~中略~しなやかで、柔軟に、チャーミングに~
活動を広げていくためには地域起点で社会に広げていくことを目標にしているんですね。
難しいエネルギーの基礎的知識を簡単に
著者は環境関連のライター経験があるため、小難しい政府が発行する環境白書なども、難しくならない程度に細かい数値も入れてわかりやすく説明されています。
温暖化の問題や化石燃料の使われ方、エネルギー消費量や再生可能エネルギーの実情など、ふだんニュースで耳にするけれど、なんだか難しくて聞き流してしまうような情報も読みやすく語られています。
なぜ省エネに地産地消なのか
考えてみれば当たり前と思う事でも、人間って案外気づかないものです。
物を運ぶには当然エネルギーが必要になります。輸送にかかるガソリンなど、化石燃料はCO2排出します。それを減らすには『地産地消』が手っ取り早く、簡単にできる工夫です。
本書中ではそのエリアを東京に住んでいる人なら関東地方全体まで広げても良いと言っています。
地産地消で得られるメリットはたくさんあり(詳細は本を読んでね)、最終的には自分を取り巻く環境もよくなっていくのですからやらない手はないでしょう。
お家でもできちゃうエネルギーシフト
様々な省エネの方法を紹介するだけでなく、自分でも太陽光発電の機器を自分で作る方法を紹介しているところがすごい!この本を読むまで、素人ができるのは子供の工作でミニカーを動かしたり小さな足元灯くらいの電気をつくるくらいがせいぜいかと思っていたら、なんと携帯やPCの充電などをまかなえるほどの本格的なものが作れてしまうことなどまったく知りませんでした。
その方法を実際にワークショップを開催して楽しむなど、素晴らしい取り組みを紹介していて、
他にも地域住民の省電力化に貢献する人にサービス提供する城南信用金庫の話やエナジーグリーン(株)の「えねぱそ」なども挙げています。
やっぱり政治参加
映画「エリン・ブロコビッチ」のようにちょっとしたきっかけから興味をもち、人の心をつかんでそれがやがて社会全体が動いていく。そのためには現実問題として、政治家を巻き込むことが必要不可欠です。
著者が印象的だったという自民党衆議院議員福田峰之氏の、ある言葉をあげています。
「署名やデモなどで人数の多さを示されても、わたしの心は動かない。署名の提言内容が素晴らしければ、記名者が10人であっても、ぜひ話を聞きたいと思う」
ただ反原発とデモで連呼するだけでなく、どうしたら原発に依存しない社会づくりに貢献できるのか、その方法をみんなで追求して行くことこそが実現への近道なのだと実感しました。
本当に素晴らしい本なので是非読んでみてください。
関連サイト
キタハラマドカ主宰 NPO法人『森ノオト』:http://morinooto.jp/
『森ノオト』facebook:https://www.facebook.com/morinooto
映画『ミツバチの羽音と地球の回転』オフィシャルサイト:http://888earth.net/index.html