なかなか買えない「獺祭」がすごいワケ
日本酒をほとんど飲まないし、正直どう旨いのかもよくわからない。
けれど獺祭という酒は知っている。そういう人は案外多いと思う。
まさにブランディングに成功している証。
自社起点で考えられるブランディングは中小企業にとっては当然取り組むべき戦略なのだけれど、この「獺祭」を造る旭酒蔵さんはさぞかし優れたプランナーやマーケターがいるのかと思いきや、そうでもないらしい。
純米大吟醸「獺祭」は世界的にも有名で、いまや16の国と地域で販売され、2011年には56万本を生産している。
先日、この「獺祭」を製造する旭酒造社長、桜井博志氏のセミナーでお話を聴くことができました。
手探りのブランディング
ブランディングにおいて、自信をもって消費者に出せる商品をつくることは大前提。
『獺祭』は商品力によって、ブランドとしての製品価値を見事につくり上げてることがよくわかります。
まずその一つに、兵庫県産の多い「酒米の王者」といわれる山田錦という品種しか使わないこと。
製造工程の微妙な加減で味が変わりやすい日本酒だからこそ、良質で安定した原料を使用することはできるだけ安定した味にするためのこだわりでしょう。
そして、いまや「獺祭」は世界的にも人気で海外で飲める日本酒としても有名になりました。
桜井社長は「世界の中で日本の文化的ポジションを造る」と語り、その際に日本酒について「どう理解させるか」を考えていると仰っていました。悩みながらやっていることが、気がつけば『顧客育成』になっていたわけですね。
様々なことを考え抜いてたどり着いた手探りのブランディング手法。
米の生産量規制で山田錦を増産できなかった問題をめぐっては、山口県出身の同郷ということもあり、安倍総理に直談判もしたそうです。
販売上の問題
販売スタイルもかなり攻めています。
通常はお酒というとお店に並べてもらい、客を待つというものだと思います。
けれど物腰やわらかな語り口からは想像できないウリの手法を語りました。
- 既存の市場にこだわらない。
- 売れる酒屋にだけしか販売しない。
- 製造と小売りの垣根をこえる。
- 常にマーケットの中心を攻める。
地方での戦いは資金力がものをいい、市場が小さいと価格競争に陥りがち。それなら市場の大きい東京、あるいは世界で戦うべきという攻めの思考がさらに勢いづけています。
徹底したコストの“勘定”もしているようで、手探りとは言いましたけど、実際は絶対にデータを元にして考えているなというのが垣間見えます。
通常はターゲットを狭めていき、売るべき相手を中心に攻めますが、狙う幅が大きくてもうまくいっている好例でしょう。それを上回る商品力があるからだと思います。
杜氏という職人
杜氏とは、もはや説明する必要もなくお酒を造る人だとおもっていましたが意外なことがわかりました。
- 杜氏は雇われ人であるにもかかわらず、酒蔵(会社)を経営する経営者に代わって、会社の命運にもかかわるお酒のテイストそのものを判断して造り上げる。
これは室町時代あたりから続いているそう。 - 杜氏は、夏場には農業を営み、雪の降る季節に酒造りをする季節労働者。
お酒の出来栄えは酒蔵の社長というよりも、杜氏次第のようです。しかし、獺祭に限っては違うようでした。
苦悩するリーダー
酒造りはこれまで杜氏の仕事であり、酒蔵の社長であっても口を出さないというのが当たり前だったそうです。
しかし、桜井社長はなんとしてもうまい純米大吟醸を作りたいと自ら酒造りに参加して取り組んだそうです。
それ以来、いくつもの問題がもちあがります。
杜氏との関係、新規事業の失敗、原料となる特定の米の確保などなど。
そうした問題を悩みぬいてきたんだなと、その話しぶりで感じました。
リーダーは苦悩すべきものだなと思います。
そうすることで困難を切り抜けるアイデアが生まれ、現状の障壁を打破し、新たなステージへと進んでいけるものだなと感じます。
経営者自身がモノづくりに参画し苦悩して創り上げた企業だけに、そこで造られる酒が人気というのも頷けます。
■ 旭酒造「獺祭」のWebサイト・・・http://www.asahishuzo.ne.jp/
世界展開されているだけあって、他言語仕様になってますw